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名古屋高等裁判所 昭和58年(ネ)699号 判決 1984年7月30日

控訴人

破産者新日本燃焼株式会社破産管財人

田中嘉之

被控訴人

破産者コロナ燃焼工業株式会社破産管財人

牛嶋勉

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(控訴人)

主文同旨

(被控訴人)

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因(被控訴人)

1  破産者コロナ燃焼工業株式会社(以下破産者コロナという。)は、昭和五七年一二月一三日破産宣告を受け、被控訴人が破産管財人に選任された。

2  破産者新日本燃焼株式会社(以下破産者新日本という。)は、同年一〇月二七日破産宣告を受け、控訴人が破産管財人に選任された。

3  破産者コロナと破産者新日本は、互いに融通手形を振出してこれを交換し、金融を受けていたが、金額および支払期日の等しい融通手形を交換し合つていたのではなく、各融通手形について、被融通者が第三者から融資(割引)を受けた場合は、支払期日までに被融通者が当該融通手形の決済資金を融通者(手形振出人)に送金する旨の合意(融通契約)が存した。

そして、昭和五七年九月までに支払期日が到来した融通手形はいずれも決済された。

破産者コロナ振出にかかる同年一〇月以降に支払期日の到来する融通手形は、別表のとおりであつた。

4  破産者新日本は、破産者コロナから受け取つた別表の融通手形のうち、9を除く1ないし8の手形については、金融機関で割引を受けたが、破産者コロナに対し、昭和五七年九月二五日に五〇万円、一〇月五日に三七〇万円、一〇月一三日に二二〇万円、合計六四〇万円を送金したにとどまり、以後、一切融通手形決済資金を送金しなかつた。

破産者コロナの破産事件において、同破産者が、自ら決済した別表1および2の手形を除く、3ないし8の手形につき、これらを割引した中央相互銀行・協和銀行から債権届出がされ、被控訴人は、これらを破産債権として認め、右各債権は確定した。なお、別表9の手形については、破産者新日本は割引を受けなかつたので、これは昭和五八年一月二二日控訴人から被控訴人に返却された。

5  右のとおりであるから、破産者新日本は、破産者コロナから受け取つた別表の融通手形のうち、金融機関で割引を受けた1ないし8の手形の決済資金合計一二四七万円を破産者コロナに送金すべきであつたところ、合計六四〇万円を送金したにとどまるので、破産者コロナは、破産者新日本に対して、右差額六〇七万円の融通手形決済資金請求債権を有するものである。

また、破産者コロナは、右債権のほか、破産者新日本に対して、売掛金債権合計一四一万七四七三円を有している。

6  破産者コロナは、破産者新日本の破産事件において、昭和五七年一一月、融通手形決済資金請求権八一二万四〇〇〇円(別表9の手形金額二〇五万四〇〇〇円を含む。)および売掛金債権一四一万七四七三円の合計九五四万一四七三円を破産債権として届出た。

控訴人は、昭和五八年二月一〇日の債権調査期日において、右届出債権のうち金四三三万七四七三円のみを認め、残額金五二〇万四〇〇〇円につき異議を述べた。

7  よつて、被控訴人は、右届出債権額金九五四万一四七三円から金二〇五万四〇〇〇円を控除した金七四八万七四七三円につき破産債権としての確定を求めるため本訴に及んだ。

二  請求原因事実に対する答弁および抗弁(控訴人)

(答弁)

請求原因事実1ないし4および6は認める。同5のうち、破産者コロナが破産者新日本に対し、六〇七万円の融通手形決済資金請求権を有することは否認し、その余の事実は認める。

融通手形の振出人(融通者)が手形金を支払つた場合は、被融通者が手形金相当額を不当利得したものとして、融通者に同金額の返還請求が認められるか、あるいは被融通者の手形決済資金支払債務不履行として、融通者の支払つた手形金と同額の損害賠償請求権が認められるが、何ら手形金を支払つていない融通者に決済資金請求権などは認められない。

(抗弁)

1 手形の満期前に融通者が被融通者から手形金相当額の決済資金の提供を受ける約束のもとに被融通者の依頼を受けて融通者が手形を振出す融通手形契約は一種の委任契約と解される。そうすれば、右は受任者たる破産者コロナの破産によつて契約関係は終了した(民法六五三条)ことになり、従つて右決済資金請求権もまた消滅した。

2 被控訴人主張の別表3ないし8の手形については、割引先である中央相互銀行および協和銀行がそれぞれ破産者新日本に対して買戻請求をし、破産者新日本の破産事件において両銀行は右買戻請求権全額を破産債権として届出し、右各債権は確定した。

破産法上主債務者の委任を受けて保証をした保証人は、主債務者が破産した場合に事前求償権を有し、その全額について破産債権者として権利行使出来るか、債権者がその債権全額について破産債権者として権利を行使した場合は右保証人の権利行使は認められない旨定めている(破産法二六条一項)。即ち破産法は、破産財団に対し同一債権について二重の権利行使によつて他の破産債権者の利益の害されることを防止せんとしている。

法律上支払義務を負つているが未だこれを履行していない点において、また破産財団が二重払を余儀なくされるという点において、未だ保証義務を履行していない保証人と未だ融通手形の決済をしていない融通者とは、破産法上同一の立場にある。

よつて破産法二六条一項但書の規定は、右のような未だ融通手形の決済をしていない融通者にも類推適用されるべく、従つて破産者新日本の破産手続において前記手形の第三取得者たる中央相互銀行および協和銀行から破産者新日本への買戻請求権の届出がなされ、右各債権が確定した以上、もはや破産者コロナはその権利を行使しえないと解すべきである。

三  抗弁に対する答弁および再抗弁(被控訴人)

(答弁)

控訴人の抗弁事実中、別表3ないし8の手形について控訴人主張の両銀行がそれぞれ買戻請求債権の届出をし、右各債権が確定したことは認めるけれども、その余はすべて争う。破産者コロナの融通手形決済資金請求債権は、融通契約に基づき、各融通手形の満期以前に既に発生し行使し得るものであり、「未だ保証債務を履行していない保証人」の「将来行うことあるべき求償権」とは全く異なるものであつて、これを同様に扱うことは著しく不合理である。

(再抗弁)

破産者コロナの融通手形の決済資金六〇七万円を破産債権として認めないことは、信義則に反し許されない。

破産者コロナと破産者新日本は、既に述べたように互に融通手形を振出し金融を受けていたが、破産者新日本が昭和五七年一〇月二〇日不渡りを出して倒産したため、破産者コロナは既に破産者新日本から振出しを受け割引によって金融を受けていた額面合計一三〇五万円の手形のうち、一二〇五万〇二四三円の手形を買戻した。しかるに破産者新日本は、別表の通り破産者コロナ振出にかかる額面一二四七万円の手形を割引して金融を得ていたにも拘らず一切買戻さなかつた。その結果破産者コロナは、自己振出しにかかる右一二四七万円の手形のうち自ら決済した計二九二万円の手形を除外した別表3ないし8の額面合計九五五万円の手形について振出人としての責任を追及されているのに対し、破産者新日本は破産者コロナの買戻した前記一二〇五万〇二四三円の手形について何らの責任も問われていない。かかる事実関係のもとでは本件六〇七万円の債権を破産債権として認めないことは信義則に反し許されない。

四  再抗弁に対する答弁(控訴人)

再抗弁事実は認めるが、被控訴人の主張は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一控訴人は当審において売掛金債権の存在については不服がなく、手形決済資金請求債権の存在についてのみ不服があると主張するものと認められるので、以下手形決済資金請求債権の点のみについて判断する。

破産者コロナと破産者新日本間で、被融通者が融通者振出の手形を第三者で割引いた場合は、被融通者が融通者に対し満期前に手形金額相当の決済資金を送付する旨の合意のもとに、互に融通手形を振出していたこと、右契約に基づいて破産者コロナは破産者新日本に対して別表記載の各手形を振出し、破産者新日本は別表1ないし8の手形を、それぞれ金融機関で割引きしたこと、別表3ないし8の手形については、割引先である中央相互銀行および協和銀行が破産者新日本の破産手続において右割引手形買戻請求債権の全額をもつて破産債権として届出をし右各債権は確定したこと、及び、破産者コロナは破産者新日本の破産事件において、別表1ないし9の手形決済資金のうち既に受領済の六四〇万円を控除した八一二万四〇〇〇円を破産債権として届出たことは、当事者間に争いがない。

以上の事実関係を前提として判断すると、本件融通契約に基づいて融通者たる振出人が被融通者たる受取人に求めることが出来るのは満期における手形決済資金であるから、満期後は右契約の履行として手形決済資金の支払を求めることは出来ないものと解される。

尤も、破産者コロナは、満期までに破産者新日本から決済資金の送付がなかつたからと言つて振出人として支払の責を免れることが出来るものではなく、現に破産者コロナの破産事件においては別表3ないし8の手形を所持している中央相互銀行および協和銀行が右手形金債権の全額をもつて破産債権として届出をし、右債権が確定していることは当事者間に争いがない事実であるけれども、破産者コロナが右両債権者から前記手形の振出人としての責任を問われるのは、とりもなおさず満期までに決済資金を送付すべき債務を破産者新日本が怠つた結果に他ならない。従つて破産者コロナは、振出人として支払わざるをえなかつた手形金を債務不履行に基づく損害賠償として破産者新日本に求めうべく、ただ別表3ないし8の手形所持人である右両債権者に支払わざるをえない手形金額が自らの破産手続における配当額の決定に委ねられている関係から、不確定金銭債権として破産者新日本の破産事件において届出をすればよいものと解するのが相当である。

よつて、被控訴人の決済資金請求債権六〇七万円(破産債権として届出た八一二万四〇〇〇円から別表9の手形金二〇五万四〇〇〇円を控除した残額)の確定を求める部分は、爾余の点について判断をするまでもなく理由がない。

二被控訴人の信義則違反の主張については、債権存在確認訴訟である本訴において私権の行使に関する右主張はなしえないものと解されるので、主張自体失当として採用しない。

以上のとおりであるから破産者コロナは破産者新日本に対して手形決済資金請求債権を有するものとは認められないので、被控訴人の請求を一部認容した原判決は失当であるから、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消して被控訴人の請求を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(竹田國雄 海老澤美廣 笹本淳子)

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